SSブログ
ささやかな休日 【ショートショート】 ブログトップ

ささやかな休日4 [ささやかな休日 【ショートショート】]

 若井寅蔵は、妻の海子とホテルの1階ロビーフロアにあるラウンジ『リンカーン』にいた。
 ほんの十五分程前まで、海子は上機嫌だった。

 遡ると・・・。

 時間は、14時を少し過ぎたあたりだった。駅からホテルまでは、タクシーで乗り付けた。
表玄関に着いた途端、ドアマンがタクシーに寄って来た。

 「東京大神ワイハットホテルにようこそ」。そう言ってドアマンは、寅蔵と海子のボストンバックの持ち手に、手を差し出した。寅蔵と海子は、少し恥ずかしそうにして、ボストンバッグを渡した。

 「ご宿泊のお客様で、よろしかったですか?」

 「はい、そうです」

 寅蔵は、ドアマンの問い掛けに答えた。ドアマンの名札には、金野と書かれていた。

続きを読む


nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog

ささやかな休日3 [ささやかな休日 【ショートショート】]

 寅蔵が、「夫婦水入らずプラン」の宿泊予約を入れてから十日後、寅蔵あての電話が入った。
東京大神ワイハットホテルの宿泊係の岩佐からだった。

 「若井様のご自宅で宜しかったでしょうか?」

 「はい、若井でございます」。電話に出たのは、海子だった。

 「こちらは、東京大神ワイハットホテルの宿泊係の岩佐でございます。寅蔵様はご在宅ですか?」
大変丁寧な言葉づかいに、海子は緊張しながら「はい」と言って、寅蔵を呼び出した。

 「はい、若井寅蔵ですが?」

 電話に出た寅蔵は、すぐに応答した。

続きを読む


nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

ささやかな休日2 [ささやかな休日 【ショートショート】]

 時計の針は、深夜1時を回っていた。寅蔵は、東京大神ワイハットホテルのホームぺージを食い入るように見ていた。妻の海子が、少しでも喜ぶようなプランを探していた。

 海子は、「日帰りでもいい」と言っていたが、寅蔵の気持は、それでは収まらなかった。1年365日働き詰めの毎日。正月やお盆の時期は、寿司屋にとっての繁忙期。長期の休みなどは、娘の美子が十五年前に嫁いだ時の一週間だけ。週一回の定休日が、唯一の休息の日であった。海子は、夫の寅蔵を支え続けて来たのだ。
 
 「当然のご褒美」と寅蔵は思っていた。

続きを読む


nice!(8)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog

ささやかな休日1 [ささやかな休日 【ショートショート】]

 年老いた夫婦は、寿司屋を営んでいた。寿司屋の名前は「寅寿司」。

 しかし、夫婦はこの寿司屋をいつ閉店させるか、そればかり考えていた。
古びたカウンターは、客が溢した醤油あとで、所々滲みになっていた。
閉店の時期で、この夫婦が悩んでいるのは、一定の馴染みの客が離れないことだった。

 今日も店は、満席だった。馴染みの客の一人である山井玄介が、仲間を十人も引き連れてやってきていた。

 「玄さん、いつもありがとうね」

 「いいよ、寅さん。若さんの握りは絶品だからね。ネタも新鮮だし」

 若井寅蔵は、苦笑しながらも「うちは、それだけが取得だからね」
少し自慢げに言った。

続きを読む


nice!(17)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog
ささやかな休日 【ショートショート】 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。