SSブログ

ささやかな休日2 [ささやかな休日 【ショートショート】]

 時計の針は、深夜1時を回っていた。寅蔵は、東京大神ワイハットホテルのホームぺージを食い入るように見ていた。妻の海子が、少しでも喜ぶようなプランを探していた。

 海子は、「日帰りでもいい」と言っていたが、寅蔵の気持は、それでは収まらなかった。1年365日働き詰めの毎日。正月やお盆の時期は、寿司屋にとっての繁忙期。長期の休みなどは、娘の美子が十五年前に嫁いだ時の一週間だけ。週一回の定休日が、唯一の休息の日であった。海子は、夫の寅蔵を支え続けて来たのだ。
 
 「当然のご褒美」と寅蔵は思っていた。 東京大神ワイハットホテルの宿泊プランは、多岐に飛んでいたが、旬のプランは「三世代プラン」というものだった。「三世代プラン」とは、文字通り「親・子・孫」が一緒に宿泊できるプランのことだ。

 「これじゃぁ、海子は落ちつかねぇなぁ」
寅蔵は、一人で呟いた。

 「これぐらいだなぁ、いいのは」

 寅蔵が選んだのは、「夫婦水入らずプラン」。一泊64,000円の宿泊料が掛かるが、部屋はセミスイートで、食事は和食・洋食から選べる設定になっている。東京スカイツリーの天望デッキに優先して登れる特別予約券や現地までの無料送迎バスも有り、帰りの途中下車も可能であるプランだった。

 寅蔵は、思い切って、三泊四日で申し込んだ。スカイツリーの天望デッキを三回登ることになるが、それだけの価値はあると踏んだ。

 「寅寿司」のホームページに追加した『海子と楽しむ“ささやかな休日”』には、「思案の揚句、天下の東京大神ワイハットホテルが企画した“夫婦水入らずプラン”に決定。大奮発!海子のためなら…なんてなぁ」…などと書き記した。寅蔵は、子供のように、ワクワクしながら店に立つようになった。



 東京大神ワイハットホテルの内部スタッフ用の会議室では、戦略会議が開かれていた。総支配人を含め、幹部九名が出席する重要な会議だった。議題は、「戦略の見直し」であった。

 開業から半年、客足が思うように伸びなかった。オープニング三ヶ月間は、順調に客室は稼働し、常に100%満室状態であった。併設されているレストランやショップなどのテナントにも長蛇の列が出来るほどであった。
しかし、その後のホテルは閑散としていた。

 総支配人の右腕である、バイスプレジデントの伊藤拓実は、会議で檄を飛ばした。「このままでは、他のホテルチェーンと同じ憂き目にあう。グループの威信にかけてテコ入れを行いたい。意見のある者は遠慮なく申し出て下さい。」

 団体宿泊の法人営業を担当する営業二部の三河が、手を挙げた。

 「三河君、どうぞ」
議事進行役の総支配人秘書の古山が言った。

 「営業二部の三河です。わたくしの意見は、法人部門だけでなく、個人部門の企画物の料金を抜本的に、見直してはどうかと思います」

 総支配人である、ピエール・サンダースの顔は歪んだ。



image12.jpg


nice!(8)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 8

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

横南高校物語4ささやかな休日3 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。