ささやかな休日4 [ささやかな休日 【ショートショート】]
若井寅蔵は、妻の海子とホテルの1階ロビーフロアにあるラウンジ『リンカーン』にいた。
ほんの十五分程前まで、海子は上機嫌だった。
遡ると・・・。
時間は、14時を少し過ぎたあたりだった。駅からホテルまでは、タクシーで乗り付けた。
表玄関に着いた途端、ドアマンがタクシーに寄って来た。
「東京大神ワイハットホテルにようこそ」。そう言ってドアマンは、寅蔵と海子のボストンバックの持ち手に、手を差し出した。寅蔵と海子は、少し恥ずかしそうにして、ボストンバッグを渡した。
「ご宿泊のお客様で、よろしかったですか?」
「はい、そうです」
寅蔵は、ドアマンの問い掛けに答えた。ドアマンの名札には、金野と書かれていた。
「チェックインは、15時からになっておりますが、それまでお荷物をこちらでお預かり致しましょうか?」
「そうだね。そうしようか」
「失礼ですが、お客様は、『夫婦二人だけの休日プラン』でご宿泊の若井様ご夫妻でございますか?」
「はい、そうですが」
「1階ラウンジの『リンカーン』で、若井様のウェルカムドリンクをご用意しております。チェックインまでのお時間を、そちらでいらっしゃいますか」
「あー、なるほど。そうしようか」。寅蔵は、海子の眼を見ながら言った。
金野はベルボーイの横瀬に、寅蔵の鞄を引き継いだ。
「こちらでございます」
そう言って、横瀬は、寅蔵と海子をラウンジ『リンカーン』に案内した。
「若井様、お煙草の方はいかがでございますか?」
「そうだね。一服吸うか」
横瀬は、二人を喫煙席に案内した。そして、制服のチェンジポケットから番号札を取り出し、寅蔵に手渡した。
「番号札103番でお預かりしておりますので、チェックインの際にフロントか、ベルデスクまでお持ちください」
そう言って、横瀬は立ち去った。
寅蔵は、徐にセカンドバッグから「わかば」を取り出した。寅蔵が、長年、吸い続けている煙草だ。でも海子には、黄色地に双葉を模したパッケージが、なぜか新鮮に思えた。
「わたしも、頂戴」
寅蔵は、海子の言葉を疑った。
「吸うの?」
「えぇ」
寅蔵は、笑った。
「いいよ」。そう言って、海子に一本渡した。
寅蔵は、煙草に火を付け、軽く吸いこみ、大きく煙を吐いた。
「一流のホテルともなると、対応が違うよな。ワシの名前を覚えてるんだからな」
そう言いながら、寅蔵は、今度は、深く長く煙草を吸いこんだ。海子は微笑んでいた。
ラウンジはとても混雑していた。寅蔵と海子の席に、ウェイトレスが注文を取りに来るのに、
五分程の時間を要した。
「若井様、ようこそ東京大神ワイハットホテルへお越し下さいました。本日は、ウェルカムドリンクのご用意がございます。アルコール系とノンアルコール系、どちらになさいますか?」
「ノンアルコール系」
寅蔵と海子は、声を揃えて言った。
「承知いたしました。ノンアルコールでしたら、当ホテル特製の生搾りフレッシュジュース。バレンシアオレンジとピンクグレープフルーツとゴールデンフジのご用意があります。珈琲とお紅茶はプレミアムキリマンジャロとセカンドフラッシュのダージリンティーのご用意があります。いかがいたしましょうか?」
「ワシは、プレミアムキリマンジャロ」
「わたしは、ピンクグレープフルーツの生搾りフレッシュジュース」
「承知いたしました」
ウェイトレスは、軽く頭を下げて、注文を取った。
寅蔵が、二本目の煙草に火を付けた頃に、ウェルカムドリンクが届いた。
真新しい珈琲カップとグラスだった。寅蔵は、キリマンジャロの香りを楽しんだ後、一口飲んだが、
海子の顰め面に動揺して、珈琲カップをソーサーに置いた。
ほんの十五分程前まで、海子は上機嫌だった。
遡ると・・・。
時間は、14時を少し過ぎたあたりだった。駅からホテルまでは、タクシーで乗り付けた。
表玄関に着いた途端、ドアマンがタクシーに寄って来た。
「東京大神ワイハットホテルにようこそ」。そう言ってドアマンは、寅蔵と海子のボストンバックの持ち手に、手を差し出した。寅蔵と海子は、少し恥ずかしそうにして、ボストンバッグを渡した。
「ご宿泊のお客様で、よろしかったですか?」
「はい、そうです」
寅蔵は、ドアマンの問い掛けに答えた。ドアマンの名札には、金野と書かれていた。
「チェックインは、15時からになっておりますが、それまでお荷物をこちらでお預かり致しましょうか?」
「そうだね。そうしようか」
「失礼ですが、お客様は、『夫婦二人だけの休日プラン』でご宿泊の若井様ご夫妻でございますか?」
「はい、そうですが」
「1階ラウンジの『リンカーン』で、若井様のウェルカムドリンクをご用意しております。チェックインまでのお時間を、そちらでいらっしゃいますか」
「あー、なるほど。そうしようか」。寅蔵は、海子の眼を見ながら言った。
金野はベルボーイの横瀬に、寅蔵の鞄を引き継いだ。
「こちらでございます」
そう言って、横瀬は、寅蔵と海子をラウンジ『リンカーン』に案内した。
「若井様、お煙草の方はいかがでございますか?」
「そうだね。一服吸うか」
横瀬は、二人を喫煙席に案内した。そして、制服のチェンジポケットから番号札を取り出し、寅蔵に手渡した。
「番号札103番でお預かりしておりますので、チェックインの際にフロントか、ベルデスクまでお持ちください」
そう言って、横瀬は立ち去った。
寅蔵は、徐にセカンドバッグから「わかば」を取り出した。寅蔵が、長年、吸い続けている煙草だ。でも海子には、黄色地に双葉を模したパッケージが、なぜか新鮮に思えた。
「わたしも、頂戴」
寅蔵は、海子の言葉を疑った。
「吸うの?」
「えぇ」
寅蔵は、笑った。
「いいよ」。そう言って、海子に一本渡した。
寅蔵は、煙草に火を付け、軽く吸いこみ、大きく煙を吐いた。
「一流のホテルともなると、対応が違うよな。ワシの名前を覚えてるんだからな」
そう言いながら、寅蔵は、今度は、深く長く煙草を吸いこんだ。海子は微笑んでいた。
ラウンジはとても混雑していた。寅蔵と海子の席に、ウェイトレスが注文を取りに来るのに、
五分程の時間を要した。
「若井様、ようこそ東京大神ワイハットホテルへお越し下さいました。本日は、ウェルカムドリンクのご用意がございます。アルコール系とノンアルコール系、どちらになさいますか?」
「ノンアルコール系」
寅蔵と海子は、声を揃えて言った。
「承知いたしました。ノンアルコールでしたら、当ホテル特製の生搾りフレッシュジュース。バレンシアオレンジとピンクグレープフルーツとゴールデンフジのご用意があります。珈琲とお紅茶はプレミアムキリマンジャロとセカンドフラッシュのダージリンティーのご用意があります。いかがいたしましょうか?」
「ワシは、プレミアムキリマンジャロ」
「わたしは、ピンクグレープフルーツの生搾りフレッシュジュース」
「承知いたしました」
ウェイトレスは、軽く頭を下げて、注文を取った。
寅蔵が、二本目の煙草に火を付けた頃に、ウェルカムドリンクが届いた。
真新しい珈琲カップとグラスだった。寅蔵は、キリマンジャロの香りを楽しんだ後、一口飲んだが、
海子の顰め面に動揺して、珈琲カップをソーサーに置いた。
2013-11-04 21:30
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