横南高校物語4 [横南高校物語 【学園物語】]
亜紀子は、明日、瑶子に聞かせる曲を選んでいた。本棚には、今まで亜紀子が練習に練習を重ねた、
譜面を束ねたファイルが並んでいた。
突然、携帯電話のメールボックスに、加藤晋太郎からのメールが入った。加藤は、整形外科医である。
昔、亜紀子の主治医であった男だ。
亜紀子は、何度か右手の腱鞘炎を患ったことがあった。今は大丈夫であるが、ソフトボールの過酷なピッチング練習とピアノの練習が重なると、右手の手首を痛めていた。腱鞘炎の症状が出ると、亜紀子は通学途中にある、「みなみやま整形外科院」に通院していた。そこで、加藤は医員として勤務していた。
加藤は、所謂インテリのエリートであったが、人当たりは良く、亜紀子は兄のように慕っていた。恋愛感情は無かったが、加藤に会うたび、胸は高鳴っていた。
亜紀子が開いたメールには、こう書かれていた。
「あした、久しぶりに会えないかな」
「あしたは、瑶子と一緒にショパンで“おちゃ”してます。瑶子に一曲披露してってせがまれて。先生もどうぞって言いたいのですが、何か相談事もあるようで」。柔んわりと断りのメールを打った。
亜紀子は、加藤への思いが冷めたわけではなかったが、どうしても気になる男がいたのだ。男の名前は、千種光。亜紀子の同級生である。光とは、小学校・中学校と別の学校であった。亜紀子は、入学式で初めて会ったときから気になっていた。
光は、小・中学校と野球部に所属していた。全日本中学選手権の優勝経験者でもある。身長は171センチメートルしかなかったが、ポジションはピッチャーであった。県内外の有名私立高校からスカウトされていたことも、校内で知らないものはいなかった。
「小さな巨人」
中学時代に取っていた異名が、既に定着していた。
しかし、光は野球部に入部しないという。亜紀子には、その理由が分からなかったが、自分が選んだ道と何となく似ているような気がしていた。
亜紀子は、声を掛けてみようと試みたが、光は想像以上に固い男だった。廊下ですれ違う時も、亜紀子には目もくれなかった。
そんな光は、映画研究部に入部するという。以外で仕方なかった。光をよく知る女生徒の間では、「光君らしいわね」という意見で一致していた。
亜紀子は、バート・バカラック作曲の『雨にぬれても』を、瑶子に聞かせる曲に選んだ。この曲はピアノ曲ではないが、「アレンジすれば十分楽しめるはずだ」。瑶子は、クラッシックを期待しているに違いないが、彼女の期待には添えると亜紀子は思った。
譜面を束ねたファイルが並んでいた。
突然、携帯電話のメールボックスに、加藤晋太郎からのメールが入った。加藤は、整形外科医である。
昔、亜紀子の主治医であった男だ。
亜紀子は、何度か右手の腱鞘炎を患ったことがあった。今は大丈夫であるが、ソフトボールの過酷なピッチング練習とピアノの練習が重なると、右手の手首を痛めていた。腱鞘炎の症状が出ると、亜紀子は通学途中にある、「みなみやま整形外科院」に通院していた。そこで、加藤は医員として勤務していた。
加藤は、所謂インテリのエリートであったが、人当たりは良く、亜紀子は兄のように慕っていた。恋愛感情は無かったが、加藤に会うたび、胸は高鳴っていた。
亜紀子が開いたメールには、こう書かれていた。
「あした、久しぶりに会えないかな」
「あしたは、瑶子と一緒にショパンで“おちゃ”してます。瑶子に一曲披露してってせがまれて。先生もどうぞって言いたいのですが、何か相談事もあるようで」。柔んわりと断りのメールを打った。
亜紀子は、加藤への思いが冷めたわけではなかったが、どうしても気になる男がいたのだ。男の名前は、千種光。亜紀子の同級生である。光とは、小学校・中学校と別の学校であった。亜紀子は、入学式で初めて会ったときから気になっていた。
光は、小・中学校と野球部に所属していた。全日本中学選手権の優勝経験者でもある。身長は171センチメートルしかなかったが、ポジションはピッチャーであった。県内外の有名私立高校からスカウトされていたことも、校内で知らないものはいなかった。
「小さな巨人」
中学時代に取っていた異名が、既に定着していた。
しかし、光は野球部に入部しないという。亜紀子には、その理由が分からなかったが、自分が選んだ道と何となく似ているような気がしていた。
亜紀子は、声を掛けてみようと試みたが、光は想像以上に固い男だった。廊下ですれ違う時も、亜紀子には目もくれなかった。
そんな光は、映画研究部に入部するという。以外で仕方なかった。光をよく知る女生徒の間では、「光君らしいわね」という意見で一致していた。
亜紀子は、バート・バカラック作曲の『雨にぬれても』を、瑶子に聞かせる曲に選んだ。この曲はピアノ曲ではないが、「アレンジすれば十分楽しめるはずだ」。瑶子は、クラッシックを期待しているに違いないが、彼女の期待には添えると亜紀子は思った。
コメント 0