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営業マン 長島幸四郎2 [営業マン 長島幸四郎 【小説】]

 時計の針は、午前7時30分を指していた。幸四郎は、部下の上村と待ち合わせている喫茶店にいた。勤務先とは反対側で、渋谷の宮益坂を登りきった角にある小さな店だが、密談にはいつもここを使っていた。

 上村を待つ間、幸四郎はメールのチェックを行っていた。家を出る前に、居留守を使った相手である浜村からのメールがあった。内容は、予想通りのものだった。

 「重要 草叢システムの件で連絡を」

 幸四郎は、取り敢えず、無視することにした。

 店に備え付けられているテレビでも、草叢システムのニュースが映し出されていた。幸四郎は、手帳を取り出し、可能な限り、メモを取った。

 ニュース番組から情報をまとめると・・・、

 株式会社草叢システムは、代表取締役社長である草叢渉を中心として、大手都市銀行である四葉信用銀行から融資を受ける際、売上を水増し、水増し分の売掛金を「回収可能」と銀行担当者に虚偽の説明を行った上、同銀行から融資金4億円を騙し取った疑いを持たれている。

 幸四郎が、草叢システムの人事担当者から貰った資料によると、昨年度の売上は150億円で、今期は180億円を計上できる見込みであった。同社は、創業10年目のベンチャー企業で業界でも注目されていた。営業部門強化のために、派遣社員を充実させ、更なる販路獲得を目論んでいた。幸四郎は、その一翼を担う役割を得ていたのだ。

 幸四郎が、草叢システムから受注していた、派遣契約は次の通りだった。
 ●紹介予定派遣契約:新規開拓営業職10名
 ●通常派遣契約:新規開拓営業職10名
 ※紹介予定派遣・通常派遣共に、派遣料金は、1人当たり時給3,200円
 ※勤務時間は、9時から17時の7時間勤務(休憩1時間)残業代別途支給
 単純計算で、3,200円×7時間×22日勤務×20名=9,856,000円・・・。

 つまり、一カ月当たり約千万の売上になる大型受注だ。紹介予定派遣は、最長6ヶ月契約だが、派遣社員の正社員雇用が決定すれば、別途紹介料が入ってくる。年間1億円の売上確保は、硬かった。しかし、それが吹っ飛ぶわけだ。

 もっと重要な問題は、この契約が無くなるということは、派遣社員の働き口も無くなるということだ。
 
 「上村もそのことで頭が一杯だろう」

 幸四郎は、上村に掛ける言葉を考えていた。

 そもそも、この契約のファーストアタックから受注まで、幸四郎が仕切っていたのだが、派遣社員の選定やコーディネートは、上村に任せていた。幸四郎は最終チェックを行っただけだが、上村の仕事にミスはなかった。
 
 派遣社員からの苦情に対応する最前線は、上村に間違いなかった。幸四郎は、上村が到着するのを待ち続けた。



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コメント 4

たいし

nice・コメントありがとうございます。
「草叢」という言葉は初めて知りました。
by たいし (2013-10-24 00:41) 

chokou

たいしさま
いつもありがとうございます。
「草叢」・・・私も少し考えて付けました。
今後とも宜しくお願い致します。
by chokou (2013-10-24 23:22) 

cocoa051

「草叢」・・・これは「そうそう」と読むのでしょうか、それとも「くさむら」ですか。
by cocoa051 (2013-10-25 06:59) 

chokou

cocoa051さん
いつも、訪問・niceありがとうございます。
「草叢」・・・このストーリーの中では、
「くさむら」という読み方で設定しています。
今後とも、ご支援よろしくお願い致します。
by chokou (2013-10-25 08:54) 

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