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営業マン 長島幸四郎1 [営業マン 長島幸四郎 【小説】]

 幸四郎は、朝のニュースに釘付けだった。

 日課であるランニングを済ませ、シャワー浴び、爽快な朝を迎えていた。妻の真希が作った朝食は、いつも洋食だが、和食党の幸四郎の胃袋を満足させていた。幸四郎のお気に入りは、スクランブルエッグで、今日も、その味には変わりがなかった。

 朝食を済ませ、二杯目のコーヒーを啜っている時、そのニュースは流れ始めた。

 「太陽光発電関連のベンチャー企業である株式会社草叢システムが、詐欺容疑で強制捜査を受ける。社長以下、経営陣の逮捕は時間の問題か?」

 草叢システムとは、最近、幸四郎が、新規契約を決めた企業の一つだった。幸四郎は、ニュースに注視したが、事態をあまり理解できなかった。

 暫くすると、スマートフォンの着信音が響いた。同僚の浜村からだった。幸四郎は、初めて居留守を使った。

 「あら、電話、出ないの」
 真希は、食器を片付けながら言った。

 「うん」
 幸四郎は、素っ気なく言った。
 
 また、スマートフォンの着信音が鳴った。今度は、後輩で部下である上村からだった。
幸四郎は、慌てて出た。

 「はい、長島です」

 「おはようございます。上村です。今、よろしいですか?」
上村の冷静な声に、幸四郎は少し落ち着いた。

 「うん、いいよ」

 「主任は、もうご存知ですか?草叢システムの件!」

 「うん、今、テレビのニュースで知った」

 「どう対応すれば、良いでしょう。既に、スタッフさん(※1)からの、問い合わせの電話やメールがありまして」

 幸四郎も、それを考えていた。

 「俺も今、どうしようかと、考えていたところだったんだ」

 「どうされますか?」

 「出勤前に、どこかで落ち合わないか?」

 「僕もそうしたいと思っていました」

 「じゃ、いつもの店で」

 幸四郎は、電話を切った。

 長島幸四郎は、大手派遣会社に勤務している。勤続7年目の中堅営業マンである。問題になっている草叢システムは、幸四郎が半年前からアタックを掛けていた営業先の一つであった。

 幸四郎クラスの派遣会社の営業マンは、既存の顧客70パーセント、新規開拓30パーセントの割合で、営業活動を行っていくのが一般的である。幸四郎も既存顧客の売上維持に努めながら、新規開拓の売上向上に励んでいた。草叢システムは、そんな幸四郎の最重要開拓先であった。

 半年間、足を棒にしながら、漸く派遣契約の大型受注に結び付いた営業先が、強制捜査を受けたのだ。然も、社長以下、経営陣が、根こそぎ逮捕されるかもしれない事態を招いている。幸四郎にとっては、初めての経験であった。


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※1「スタッフさん」とは、業界用語で、
派遣会社に登録している登録スタッフ、
つまり派遣社員のこと。
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