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それぞれの人生1 [それぞれの人生 【小説】]
生徒達は、バケツを持って立たされていた。
生徒の名前は、萩原精二、竹田修、谷口弘志、藤田征夫、熊田健史。
五名の生徒の前に立っていたのは、担任教師の西村敢男だった。
西村は、右手に授業で使われる全長60センチメートルはある、アルミ製のコンパスを持っていた。
西村は、回転軸とチョークハサミを合わせて、カチカチ鳴らして、生徒を威嚇し、生徒の顔色を窺っていた。
同僚の教師である国東が、「西村さん、程々にね」と声を掛けた。
立たされている生徒の一人である熊田は、国東を訴えかけるような目で見ていた。
「オレに言っても知らん」
国東は、はき捨てるように、そして、生徒を見捨てるように言った。
萩原も、竹田も、谷口も、藤田も、熊田も、両手がぶるぶると震えていた。
その五人の姿を見ながら、西村は、ニタニタ笑っていた。
その時だった。先程の国東の一言で追いつめられたのか、熊田が、バケツを廊下に置いて、
トイレに駆け込んだ。そして、大便器ブースに入り、ブースのドアに鍵をかけて閉じこもった。
「コラァ!待てぇ!」
西村の怒鳴り声が、廊下に響いた。
西村は、コンパスを握りしめたまま、男子トイレに向かった。トイレの入り口のドアを開け、
熊田が閉じこもっているブースの塀を、右足で思いっきり蹴りあげた。西村は、何度も何度も蹴りあげた。
ベニヤ材の塀は、今にも割れそうであった。
「出てこい、熊田!なめんなよ」
西村は、逆上しながら、怒鳴り散らした。
ブースの中に、閉じこもっている熊田は、逆に冷静であった。
何があっても、ブースの外には出ない覚悟を決めていたし、開き直っていた。
徐にズボンのポケットから携帯電話を取り出し、洋式便器に座った。そして、母親と姉にメールを入れた。
「ニシムラが、またハッキョウしている。たすけて」
「コラぁ!何をこそこそやってだぁー」
西村が、怒鳴り声は、タイル張りのトイレに谺した。西村は、ブースの塀を蹴り続けた。
そして、ついに、西村の右足が、ベニヤ材の塀を突き破った。
男子トイレの中には、野次馬で溢れかえっていた。
その中を掻き分けて、教頭である石川と学年主任の波山がやって来た。
「西村君!やり過ぎだぞ。君には責任を取ってもらう」
石川が、西村を窘めた。
「僕も同感です。西村君は、もっと冷静にならないと」
波山は、石川を支持した。そして、西村の右腕を掴み、アルミ製のコンパスを取り上げた。
西村は、微動だにしなかったが、波山はもう一度、西村の右腕を強く掴んで、トイレの外に出そうとした。
西村は、体を硬直させた。顔は既に、真っ赤であった。
「わたしに、恥をかかせるのですか?」。 西村は自己保身に走っていた。
生徒の名前は、萩原精二、竹田修、谷口弘志、藤田征夫、熊田健史。
五名の生徒の前に立っていたのは、担任教師の西村敢男だった。
西村は、右手に授業で使われる全長60センチメートルはある、アルミ製のコンパスを持っていた。
西村は、回転軸とチョークハサミを合わせて、カチカチ鳴らして、生徒を威嚇し、生徒の顔色を窺っていた。
同僚の教師である国東が、「西村さん、程々にね」と声を掛けた。
立たされている生徒の一人である熊田は、国東を訴えかけるような目で見ていた。
「オレに言っても知らん」
国東は、はき捨てるように、そして、生徒を見捨てるように言った。
萩原も、竹田も、谷口も、藤田も、熊田も、両手がぶるぶると震えていた。
その五人の姿を見ながら、西村は、ニタニタ笑っていた。
その時だった。先程の国東の一言で追いつめられたのか、熊田が、バケツを廊下に置いて、
トイレに駆け込んだ。そして、大便器ブースに入り、ブースのドアに鍵をかけて閉じこもった。
「コラァ!待てぇ!」
西村の怒鳴り声が、廊下に響いた。
西村は、コンパスを握りしめたまま、男子トイレに向かった。トイレの入り口のドアを開け、
熊田が閉じこもっているブースの塀を、右足で思いっきり蹴りあげた。西村は、何度も何度も蹴りあげた。
ベニヤ材の塀は、今にも割れそうであった。
「出てこい、熊田!なめんなよ」
西村は、逆上しながら、怒鳴り散らした。
ブースの中に、閉じこもっている熊田は、逆に冷静であった。
何があっても、ブースの外には出ない覚悟を決めていたし、開き直っていた。
徐にズボンのポケットから携帯電話を取り出し、洋式便器に座った。そして、母親と姉にメールを入れた。
「ニシムラが、またハッキョウしている。たすけて」
「コラぁ!何をこそこそやってだぁー」
西村が、怒鳴り声は、タイル張りのトイレに谺した。西村は、ブースの塀を蹴り続けた。
そして、ついに、西村の右足が、ベニヤ材の塀を突き破った。
男子トイレの中には、野次馬で溢れかえっていた。
その中を掻き分けて、教頭である石川と学年主任の波山がやって来た。
「西村君!やり過ぎだぞ。君には責任を取ってもらう」
石川が、西村を窘めた。
「僕も同感です。西村君は、もっと冷静にならないと」
波山は、石川を支持した。そして、西村の右腕を掴み、アルミ製のコンパスを取り上げた。
西村は、微動だにしなかったが、波山はもう一度、西村の右腕を強く掴んで、トイレの外に出そうとした。
西村は、体を硬直させた。顔は既に、真っ赤であった。
「わたしに、恥をかかせるのですか?」。 西村は自己保身に走っていた。

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