横南高校物語5 [横南高校物語 【学園物語】]
放課後、千種光は、体育館脇の通用門で、七、八人の男子柔道部員に囲まれていた。喧嘩を吹っ掛けられていたのではない。・・・。入部の勧誘であった。
光は、身長171センチメートル、体重65キロの細身であった。しかし、肩幅が広く、胸板が異常に厚かったため、体格は良く見えた。そこが、柔道部員の目にとまったのだった。
「お前、良い体をしているよな」
部員の一人が言った。
「いえ、それほどでも」
「部活動は、なにをやるんだい」
「まだ、決めていません」
そう、嘘をついた。光は、中学生時代から活躍してきた、野球部でなく映画研究部に入部することを心に決めていた。しかし、それをここで、この先輩柔道部員に悟られたくなかった。
一昨日も、ラグビー部員から入部の誘いを受け、それを断っている。
断り方は、同じでないと、先々不味いことになるとも思った。
「君、名前なんて言うの」
光は「なんだ、こいつら、俺の名前も知らないのか」と心の中で思いながら、「千種です」と答えた。
「あんまり、しつこく勧誘するなよ」
四階にある、三年三組の教室から柔道部副部長松竹が叫んだ。
「すみませんが、掃除の当番がありますので」
そう言って、光は、その場を離れた。
亜紀子の親友である薫子の父親が経営する喫茶店「ショパン」では、月に一回、音楽会が開かれていた。
亜紀子は、何度か招待されたことがあったが、それ以外では、「ショパン」でピアノを弾くことはなかった。
亜紀子は、二杯目のアメリカンコーヒーを飲んでいた。
「ごめん、遅れちゃった」
瑶子は、息を切らせて入って来た。
「私、ハニーレモンください」
瑶子は、鞄をテーブルの上に置きながら言った。
亜紀子は、「自分だけ、ハニーレモンなの?喫茶店なんだから、コーヒーを注文しなさいよ」と内心思った。
「早速だけど、今日は、『雨にぬれても』を聴かせてあげるからね」
瑶子は、少し動揺した。亜紀子が、面倒くさそうに言ったからだ。
それでは、「聞きたい話が、できない」。瑶子は、気を取り直して、
「『雨にぬれても』って、わたしが知らない曲ね」。そう切り返した。
亜紀子は、その曲の原題が『 Raindrops Keep Fallin' On My Head』であることや、
作曲者が、バート・バカラックであること、そして、1969年に公開された映画『明日に向かって撃て!』の
挿入歌で、その映画の監督はジョージ・ロイ・ヒルであることなどを説明した。
亜紀子の説明に、瑶子は、頷きながら聞いていたが、どこか不満そうであった。そんな瑶子の顔を、
亜紀子は、何事もなかったかのように見ていた。
光は、身長171センチメートル、体重65キロの細身であった。しかし、肩幅が広く、胸板が異常に厚かったため、体格は良く見えた。そこが、柔道部員の目にとまったのだった。
「お前、良い体をしているよな」
部員の一人が言った。
「いえ、それほどでも」
「部活動は、なにをやるんだい」
「まだ、決めていません」
そう、嘘をついた。光は、中学生時代から活躍してきた、野球部でなく映画研究部に入部することを心に決めていた。しかし、それをここで、この先輩柔道部員に悟られたくなかった。
一昨日も、ラグビー部員から入部の誘いを受け、それを断っている。
断り方は、同じでないと、先々不味いことになるとも思った。
「君、名前なんて言うの」
光は「なんだ、こいつら、俺の名前も知らないのか」と心の中で思いながら、「千種です」と答えた。
「あんまり、しつこく勧誘するなよ」
四階にある、三年三組の教室から柔道部副部長松竹が叫んだ。
「すみませんが、掃除の当番がありますので」
そう言って、光は、その場を離れた。
亜紀子の親友である薫子の父親が経営する喫茶店「ショパン」では、月に一回、音楽会が開かれていた。
亜紀子は、何度か招待されたことがあったが、それ以外では、「ショパン」でピアノを弾くことはなかった。
亜紀子は、二杯目のアメリカンコーヒーを飲んでいた。
「ごめん、遅れちゃった」
瑶子は、息を切らせて入って来た。
「私、ハニーレモンください」
瑶子は、鞄をテーブルの上に置きながら言った。
亜紀子は、「自分だけ、ハニーレモンなの?喫茶店なんだから、コーヒーを注文しなさいよ」と内心思った。
「早速だけど、今日は、『雨にぬれても』を聴かせてあげるからね」
瑶子は、少し動揺した。亜紀子が、面倒くさそうに言ったからだ。
それでは、「聞きたい話が、できない」。瑶子は、気を取り直して、
「『雨にぬれても』って、わたしが知らない曲ね」。そう切り返した。
亜紀子は、その曲の原題が『 Raindrops Keep Fallin' On My Head』であることや、
作曲者が、バート・バカラックであること、そして、1969年に公開された映画『明日に向かって撃て!』の
挿入歌で、その映画の監督はジョージ・ロイ・ヒルであることなどを説明した。
亜紀子の説明に、瑶子は、頷きながら聞いていたが、どこか不満そうであった。そんな瑶子の顔を、
亜紀子は、何事もなかったかのように見ていた。
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